牟田都子さんの『文にあたる』という本を読みました。
(そちらの本の紹介はこちら 【書評】ひとつずつ丁寧に読んでいく)
こちらの本には「校正者が文章に赤字を入れる際、どのようなことに悩み、何を考えながら印を入れるのか」が丁寧に紹介されています。
そして、さまざまな書籍も同時に紹介されています。
今回は『文にあたる』で紹介されていた一冊、青木奈緒さんの『幸田家のことば 知る知らぬの種をまく』を紹介します。
本書の執筆者・青木奈緒さんは、幸田露伴を曽祖父、幸田文を祖母に持つ方です。
『幸田家のことば 知る知らぬの種をまく』では、幸田家が長年使い続けてきた、今ではあまり耳にしない言葉を紹介しています。
ぞんざい丁寧、こぼれ種、身上も軽けりゃ身も軽い、出ず入らず、心ゆかせ、猫へい、みそっかす……
どれも聞いたことのない言い回しです。
『文にあたる』では『幸田家のことば 知る知らぬの種をまく』の「はじめに」の一部を紹介しています。
そこには「執筆する際、一般の人がわからない言葉を使うのを避けた」というエピソードが書かれています。
なるほど、確かに。意味が通じなければ文字にする意味がない。
ですが、そうやって失われていく言葉がなんと多いことか。
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本書を読んでいると、忙しない心が柔らかくなっていくような感覚を得ました。
私は普段、どれだけ時間に追われているのだろう。
もっと丁寧に物事を見ていく必要があるのに、緩やかに受け止める場所が少なくなっていたように思います。
それが、言葉に表れている。
『幸田家のことば 知る知らぬの種をまく』は言葉の温かみを感じるのと同時に、積み重ねられた歴史を感じることもできる本です。
あなたがいて、私がいる。今ではなかなかない人間関係が、当たり前の時代があった。
そのことに、ふっと息をこぼせるのです。
本書の中で私が一番印象に残っているのは、「人には運命を踏んで立つ力があるものだ」です。
言葉そのものが、踏ん張らなければ、と奮起させてくれる。
ですが、実際に幸田家で使われたのはもっと俗な場面でした。
是非、本書をお手に取ってみていただけたら幸いです。
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