【書評】読者に期待される出版社とは

書評・勉強になる本紹介

出版社の立ち上げを考えたことがあります。
ただ、私の性格上、大規模な出版社を一人で回していくのは性に合わない。
ならば、どのような出版社が自分の理想に近いのか。

悩みながら書棚を彷徨っていた時、西山雅子さんが編集された『“ひとり出版社”という働き方』に出会いました。

本書は「ひとり出版社とはどのような形態の出版社なのか」が読めばわかる本です。
内容は、実際にひとり出版社を運営されている方々のインタビュー集。
ここに書かれているのは夢の話だけでなく、現実と向き合う生々しさがありました。

この本に出会ったことで、ひとり出版という選択肢が世の中にあるのを知りました。

もし自分が出版社を経営するのなら、ひとりで会社全体を回せるサイズがいい。
大きな会社のトップに立つのは性に合わない。
けれど、出版不況といわれて久しい昨今、出版事業を立ち上げ、軌道に乗せるのはとても難しい。
勇気が、なかなか湧かない。

可能性と実現性の天秤を見比べながら、踏み出せない日々を過ごしました。

そんなある日、気になる一冊に出会いました。
島田潤一郎さんの『あしたから出版社』です。

本書は就職に失敗し定職に就けない中、親族を亡くしたことをきっかけに出版社・夏葉社を始めた著者のエッセイです。

島田さんは大切な人を慰めたいと願い、詩の本を作ることにします。
父親にお金を借り、経験者に相談しながら準備を進め、一歩ずつ着実に作業を進め、本を作る。
暗中模索な日々を過ごしながら、丁寧に真心を込めて作成する一冊の本は、どのような可能性を開くのか。

読み進めながら、一冊の本に込める想いはこんなにも深いのか、と気持ちが震えました。
本を開くと、文章を書いた人の想いばかりを追いかけてしまいます。
どんな内容が書いてあるのか、どんな意見が提示されているのか、どんな想いを届けたいのか。
けれど、実際はそれだけじゃない。

本の装丁に何を込めるのか。
読者に届けるにはどうしたらいいのか、手に取った人がどんな気持ちになるのか、どうして本にしたのか。
痛いくらいに強い思い。それを押し付けるのではなく、届ける作業。
それが出版社なのだと思いました。

大手出版社ではできない丁寧さ。それがひとり出版の魅力なのかもしれません。
売上を軽視してはいけないけれど、これでもかとこだわる。
真剣に一冊と向き合う。
売れるかどうかわからない不安は常に付き纏うけれど、この世界に宝物のような本を送り出せる。

その輝きにうっとりしました。

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では、今の私はどのような決断を下したか。

やっぱり一人で出版社を運営する勇気は持てなかったです。
いつかは一歩踏み出したいと願いながら「でも」と躊躇ってしまう。

自分の不甲斐なさをよくよく理解しているから。

人には得手不得手があって、私は不得手がとにかく多い。
ネット社会に対応できているのが奇跡なくらいに機械音痴です。
そんな私がひとり出版社? とても難しい。

けれど、素敵な仲間に出会えました。

私は今、出版社・名興文庫で活動のお手伝いをさせていただいています。
 名興文庫のHPはこちら
活動の中で考えるのは、どのような出版社が社会から期待されるのか、という問いです。

一冊作るのに、丁寧な作業ができる出版社。
素敵な物語を探している読者に、自信を持って作品を提示できる出版社。
世の中をより良くするお手伝いができる出版社。

人によって望む形に違いはあるでしょう。
ですが、期待に応えられる出版社でありたい。
『あしたから出版社』を読んで、そう思いました。

気になる方は是非一度、手に取ってみてくださいな。

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