戦中戦後を題材にして小説を書くのはとてもハードルが高い、と私は感じています。
なぜか。
さまざまな政治的意見があるからです。
戦争を題材にすることを避けている気がします。それは文学であれ映像であれ、何であれ。
表現すれば「それは自分の主義主張にそぐわない」と反発を受けることがあるからです。
右だ左だと指さされるのは気持ちの良いことではありません。
とてもデリケートな話題。
ですが、避け続けるのは間違っているのではないでしょうか。
ロシアがウクライナに侵攻し、戦場となっています。
戦争は歴史の中で学ぶだけのことではなく、私たちの身近で起きうる人災です。
当時を生きていた人たちはどのような感情を抱いていたのか。
それを、悲劇の側面だけでなく、満遍なく知る努力が必要かと思います。
そこで今回紹介するのは『対論・異色昭和史』です。
本書は、『思想の科学』創刊に携わった鶴見俊輔さんと、婦人問題や昭和史・戦後史を題材にノンフィクションの著作がある上坂冬子さんの対談をまとめたものです。
お二人は戦中に青春を過ごしました。
対談の中で、当時起きた事件を題材に、どのような考えを持っていたのかが語られています。
* * *
第一章で戦時下の思い出を語り、第二章で戦時体制下の暮らしぶりを語ります。
第三章で戦後日本の発展を語り、第四章で『思想の科学』の周辺で起きた事件を語ります。
エピローグでは教育のことや死について語っています。
ここでは普段の生活で話題にしづらいことも対談しています。
慰安婦問題、天皇制、憲法九条、東京裁判、原子爆弾、ベ平連、靖国参拝、教育勅語。
誰もが何かしら意見を持っている内容を、戦争を経験した二人が口にします。
二人は必ずしも同じことを考えてはいません。
だから話題によってはピリピリする、読者のこちらが背筋を伸ばしてしまう、緊張感でもって激しく意見を交わします。
それと同時に、それぞれが現状の姿勢に疑問を投げかけたりもします。
相手の意見を聞き、自分はどのように考えるか発言する。
読んでいるだけで大事な姿勢を教えらます。
* * *
昭和史・戦後史を考えるにあたって本書は役立つ、というのが私の意見です。
あまりにもリアルで、迫るものがある。
「過去こんなことをしたから私たちはこういう考えを持たなくてはならない」と意見することが、とても陳腐に思えます。
あの時代を生きていた人たちの声を無視して作り上げる意見。
それを鵜呑みにするのは、とても危険なのではないでしょうか?
時代の空気を知る。そのために本書を一読するのはおすすめです。
対談なので読むのに楽ですし、「時代を知る」とはどういうことなのかがよくわかる。
何より、自分なりの意見を相手に伝え、相手の意見を聞く姿勢も忘れない。
その大切さがわかります。
あとまぁ、会話劇のヒントになる気がします。(笑)
本当に、部分部分ピリピリとしていて、緊張しました。
ああいった緊張感を表現できる会話を文章で紡いでみたいものです。
気になる人は是非。
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