【読書記録】『女のいない男たち』

読書記録

本屋は恐ろしい場所だな、と行く度に思います。楽しい、楽しすぎる!
私の知的好奇心をガスガスと刺激してくれる部分が素敵ですね! たまりません!
本屋は世界が広いことをたくさん教えてくれる、素敵な場所。

でも最近はネットで本を購入する方が多いらしく、本屋さんがどんどん消えていっています。寂しい。みんな本屋で本を買おうぜ! あ、漫画でもいいよ! 買おうぜ!
(といいつつ、ネットで本を購入することが多々あるのですが(汗))

本屋でなければ出会えなかった作品がたくさんあります
ネット検索だと視野が狭くなって、好きなジャンルや作家さんしか手に取らなくなってしまう。類似商品、と紹介はしてくれますけど、好みの外にある本に出会おうと考えたら、不便な機能です。

本屋だと平積みされているものが視野に入ってくる。
そこで新しい出会いが生まれます。

村上春樹さんの『女のいない男たち』はまさに、本屋さんでなければ手に取らなかった文庫本です。

帯がついていたんです。本書に収録されている「ドライブ・マイ・カー」という短編小説。この映画がアカデミー賞を受賞した、と。映像の一場面が一緒にあって、その空気感に、惚れた。

 * * *

村上春樹作品は、ぽろぽろと読んでいます。一番最初に読んだ小説は何だったかな? と読書記録を辿ると(今まで読んできた本のタイトルと著者名をノートに記録しているのです)『ノルウェイの森』でした。

読んだ当時、受け止めきれなかった思い出があります。
ああ、自分の知らない文学がここに描かれている。抱えきれない感情の受け止め方がわからなくなった登場人物たちの心が、そのままスッと自分の中に入ってきて、混乱した。

『ノルウェイの森』は私がそれまで知っていた世界とは違うものを教えてくれた。

村上春樹作品は好き嫌いがパキッと分かれるのですが、『ノルウェイの森』は好き。だから映画も観ました。映画は、ちょっと違ったかな。私が抱いた世界と映像の世界にズレがあった。そうではないよな、と確認のためにもう一度読み直したくらい『ノルウェイの森』は、好き。

 * * *

そのあと手に取ったのは、『アフターダーク』。でもこの作品、まるで覚えていないんですよ。ただ漠然と「私は今、この物語にピントが合っていないな」と感じた。今読み直したら、また違う気がします。

小説って不思議なもので、手にとる時と、自分の糧になるタイミング。これが同じではないのですよ。
ふと呼ばれて手元に来たのに、文字の意味が理解できるのは数年後。なんてことがザラにあったりします。
きっと『アフターダーク』はそういう作品なのでしょう。今手元にないので、いつか再購入して読みたいな。

その次に読んだ『東京奇譚集』も、記憶にないのです。表紙は覚えているのですけど、内容はさっぱり。これもピントが合っていなかったのでしょう。
ただ、こちらは何か、嫌な気持ちが残っています。どこかの表現が気に入らなかったのかもしれません。

『ノルウェイの森』から『アフターダーク』『東京奇譚集』は読むまでに一年くらい間が開いています。それだけ『ノルウェイの森』の印象を大事にしたかったのかもしれません。
(まあ、間で他の作者さんの本を読んでいますけどね)

 * * *

自分の中で求めていた物語に出会えなかった反動なのか、すぐに次の小説を読みました。
『風の歌を聴け』。ここで、心底村上春樹さんの小説が好きになりました。その感動は今でも覚えている。ああ、これが知りたかった、と心の中でため息をついたのです。

空気。あの空気が好き。静寂の中に流れる小さな音楽。それに耳を澄ませるような、酔いしれる物語。
ああ、なんだかまた読みたくなりました。文庫本、手元に一冊置こうかしら? そのくらい、好きです。これが処女作なのだから、本当にすごい。すごいです。

この感動が冷めない間に『羊をめぐる冒険』を手に取りました。とにかく村上春樹さんの世界に浸かりたくて仕方がなかった中での読書で、当然ながら、好きになりました。

羊、羊。泊まったホテルの様子がなぜかリアルに想像できて、あのまま私は帰って来れていない気がします。羊ともっとお話ししたかった。もう一度、読みたいなぁ。

そうそう、鼠三部作と呼ばれる『1973年のピンボール』は読んでいないのか? と尋ねられる方がいらっしゃるかと思います。ええ、なぜか読んでいません。なんでなんだろう?

村上春樹作品は実家に置いてあったのを読んでいました。母が好きだった、のかな。そこになかったか、もしくはタイトルに惹かれなかったのか。読んだ当時はスマホ時代じゃなかったので、検索して調べるなんてこともしなかったし……そろそろ読む時期が来たのかもしれません。

 * * *

次に読んだのが『スプートニクの恋人』。これもまるで覚えていません。私の脳みそはどうなっているんだ? おそらく、またピントが合わなくなったのでしょう。そういうこともあります。

ただ表紙は覚えている。そう、表紙は覚えているのです。やっぱり小説の表紙って大事ですね。作品を彩り、記憶を留める。おかげで同じ本を購入する不手際を起こしていない、と信じたい。

ここから三年経って手に取ったのが『レキシントンの幽霊』。
三年も間が開いたのは、きっと私の中で村上春樹さんの世界が満たされたから、だと思います。たぶん。これ以上の満足はないのだろう、と予感していたのかも。
そのせいなのか、まるで覚えていません。私の脳みそ、かなりポンチですね。

でもこの後、ものすごく私を捕らえて離さなかった小説に出逢います。『国境の南、太陽の西』です。

一度読んで、感覚が囚われて戻れない日が続いたのをとても覚えています。
ひたすら、波が引くのをじぃっと待っていた。寂しさと悲しさが襲ってきたのか、儚さを愛おしく思ったのか。揺れて仕方がなかった。
タイトルを見ただけで当時の感覚を思い出すくらいだから、かなり影響を受けたのだと思います。読み直したい一作品。

その一年後、手に取ったのは『ダンス・ダンス・ダンス』。鼠三部作の続編、と考えていいのか、どうか。とにかく羊に会えたのが嬉しかった。嬉しかったんです。

まさか会えるだなんて。あの流れに飲み込まれたら、もう、帰るのが難しい。とにかく好きと思いました。読み直したいな……。

 * * *

ここで私は村上春樹さんから離れます。
きっと、衝撃が大きすぎた。もうこれ以上浸かると戻りにくくなる。
その恐怖があったのかもしれません。
遠い、懐かしい場所。そのくらいがちょうどいい。

でも、代表作と呼ばれているものを読んでいません。
だから五年後、久々に手に取ったのは『海辺のカフカ』でした。

読んで、思ったのは、好き。ただそれだけでした。
不思議な現象を受け入れ、納得する。拒絶はない。ただ出来事に従う気持ち。孤独はあるし、悩みもある。それでも一歩前へ出る。
ああ、終わらせ方が好きです。好きしか言ってないな。でも、私の好みにドンピシャだった。

そしてやってきたのが、『1Q84』でした。

テレビで大々的に宣伝していたから気にはなっていたけれど、実際に読んだのは文庫化してからです。それまでじっと見守っていました。
流行追うの、嫌いなんです(笑)

文庫本が全部出切ってから、読み始めました。読んだ感想は、こんな感じになってしまったのか、です。

私が愛していた村上春樹さんから離れてしまった。いや、本人が執筆しているし、本人はどこにも行っていないだろうし、変わるというと失礼なのでしょうけど。
私が好きな作品とは形がズレてしまった。その寂しさを覚えています。

 * * *

もう村上春樹さんの作品を読むことはない。私が好きな物語は遠くへと消えていってしまった。
寂しさが胸にあったので、『騎士団長殺し』は読んでいません。きっと私の望む世界はそこにはない。その諦めがあった。

そんな、極端な、と思われるかもしれませんが、私の中で何かが終わってしまったのです。
もう別れた、もうおしまい、もう会うことはない。
そんな、恋人と別れたような感覚を持っていた。
だから、本当に久々の邂逅。約七年ぶりです。

 * * *

読み初めは、まるで期待していませんでした。
きっと私が好きな物語は霧散してしまったに違いない。だから帯の印象だけを楽しもう。
そう、思っていました。
あの空気だけ文章で味わえば、それでいい。それでおしまい。さようなら。

でも、私の好きな村上春樹さんがそこにいた。

 * * *

『女のいない男たち』は短編集です。「まえがき」から始まって「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」「女のいない男たち」。6作品が収録されています。

それぞれ好きな部分があって、懐かしい気持ちになりました。
空虚な気分、穴が空いた心、引きずられる感情、責め立てる自分、そして寂しさ。
青春時代に大事にしていた世界が、手元に帰ってきた。その喜びで満たされました。

どの作品が一番好き? と聞かれたら、とても迷います。それぞれが私の好きな要素を表現しているから。たった一つに選ぶのは、難しい。難しすぎます。
どうしても、と言われたら……「イエスタデイ」か、「木野」か。うう〜ん、悩みます。

久々に出会ってしまうと、触れていない作品に会いたくなります。まだ触れていない代表作がありますものね。読みたいなぁ。全集、でないでしょうか? 実は心待ちにしています、全集。ああでも、出る時は作家人生の総括、となってしまうので、喜ばしくないですね。

私はもう一度会いたいと願っている。

「ドライブ・マイ・カー」の映画、観たいです。3時間近い映画らしいのですが、きっとあの空気は愛おしくてたまらないに違いない。

でもきっと、どこかで巡り合うだろうから。
大人しく日々を受け入れて過ごそうと思います。

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