【書評】「心」と向き合うには

書評・勉強になる本紹介

私は幼い頃から物書きを目指しています。
文章を紡いで誰かに自分の気持ちや意図を伝える。
繊細な作業で苦労は多いですが、やり甲斐のある素敵な仕事だと思います。

物書きとして忘れてはならない重要な項目があると考えている事があります。それは、物書きは「心」を取り扱う人間なのだ、ということです。
文章は些細な表現で印象をガラリと変化させます。ちょっとの差で人の心を軽くさせることもできるし、酷く傷つけることもできます。
誰でも簡単に使用できるからこそ、プロを自称するのなら慎重になるべき。そのように私は考えます。

でも「心」とは何でしょうか?

感情の機微全般を指すのでしょうか? それとも魂のようなものなのでしょうか? はたまた心臓そのものなのでしょうか?

確かなことは、「心」を蔑ろにしたら孤独に包まれる、ということ。

誰かと理解し合うためには「心」を理解しなくてはなりません。自分の意見を一方的に伝えるだけでは思いは届かず、また、相手の意見をそのまま聞くだけで自己を失えば「心」が痛みます。
相互理解を促してくれるもの、それが「心」です。

ですが「心」を知ろうと勉強するとして、何から始めたら良いのでしょうか? いきなり専門書を手に取っても書かれている内容を深く学ぶことは難しいですし、適当に「心」について書かれている記事を読んでも体系がわからず混乱します。

私からの提案として、まず最初に簡単で専門的な本を読むことをお勧めしたいと思います。

簡単で専門的、と聞くと「意味がわからない」と考える方がいらっしゃるかと思います。ですが、難しい話ではありません。
平易に書かれた専門家による解説書。これを手に取ることをお勧めしているのです。

一番簡単に触れられるのは、絵本です。
絵本は幼児向け、小児向け、と相手の理解度が低いこと前提に作られています。そして、相手に嘘や誤魔化しを見抜く力がないことを出版社側は理解しているので、そこに書かれている内容に誤りがないかどうか、徹底的にチェックして出版しています。

だから、大人の私たちが一から新しいことを学ぼうと考えた時、まず最初に絵本に触れることをお勧めします。

そして今回は、絵本ではないですが、「心」の専門家であるカウンセラー・河合隼雄さんによる講演内容を編集した本『カウンセリングを語る(上)』を紹介したいと思います。

こちらの本は上巻・下巻と分かれています。今回は上巻をご紹介します。

河合隼雄さんは日本の臨床心理学者さんで、カウンセラーが世間的に認知される前から海外で本格的に勉強された方です。多くのクライエントと向き合い、書籍を多数出版し、多くの講演をなされました。

この本をお勧めする理由は、河合隼雄さんの講演内容を編集した内容だからです。
講演なので、全体が口語調で書かれています。また、難しい漢字はひらがなに変換され、専門用語は極力省かれています。さらに、様々なエピソードを交えて語られているので、読んでいて飽きない(笑)。
「普段難しい本を読まない、でも「心」について知りたい」という方には手に取りやすい本だと思います。

 * * *

上巻は第一章から第六章、つまり六回分の講演内容が掲載されています。初めは比較的わかりやすいカウンセリングの話から始まり、徐々にカウンセリングの難しく、けれど重要な点について紹介されています。

カウンセリングについての講演なので、一見、物書きにはまるで関係のない内容ばかりのように感じられるかもしれません。ですが、私は読んでいてハッとする文章が多々ありました。
その理由はおそらく、河合隼雄さんが「「心」を扱うカウンセラーは、小説を読むことを薦める」と、小説の役割・重要性を認識されているからだと思います。

講演されている河合隼雄さんは繰り返し「「心」を扱うのは難しい、途轍もないエネルギーがいる」と発言されています。
カウンセラーは一対一でクライエントと向き合い、会話します。それは医者と患者、という関係性ではなく、どこまでも対等な関係です。そうでなければ相手は「心」を開きません。
本気になって向かい合わなければ、相手と共感し、相手を受容することができないのです。

この姿勢は、物書きでも同じだと思うのです。

こちらがいい加減な姿勢で書き綴った文章は、そのいい加減さが相手に伝わります。だから本当に伝えたい思いがあるのなら、本気で執筆しなくてはなりません。
本気で何かを伝えたいと思う文章は、書くのに多くのエネルギーが必要です。膨大なエネルギーを使用するのは苦労が多いですが、小手先のテクニックばかりで乗り切ろうとしたら、最後まで読んでもらえない可能性が浮上します。

プロの物書きを自称するのなら、真剣に向き合ってエネルギーを注ぐ努力が不可欠ではないでしょうか?

 * * *

紹介した本はページ数が多く、いきなり全部を読むのに抵抗がある方もいらっしゃるかと思います。なので、私のお勧めの章をご紹介します。

私のお勧めは「第四章「治る」とき」です。

どうしてお勧めするかというと、「心」の動きを深く理解するのにヒントとなる文章が多く書かれていたからです。
共感と受容。自分の器。カウンセラーの理想的な立ち位置。
物書きのことをお話しされているわけではないのですが、置き換えても支障ないのではないか、と思う部分が多々ありました。

「心」と向き合うことに対して悩みをお持ちの方は、是非一度ご覧になってください。
何かしら得るものがあるかと思います。

*『カウンセリングを語る(下)』の書評はこちら

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